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森林資源管理と数理モデル
第五回シンポジウム
−FORMATH Kyoto 2005−

Abstract

吉本 敦Mean-Reverting過程による林分経営最適確率制御モデルの比較分析
本研究では、丸太価格の動きをMean-Reverting過程により確率的に捉え、林分経営持続のための最低許容価格に対する比較分析を行う。まず、Mean-Reverting過程モデルのパフォーマンス分析を行い、モデルの特徴を示す。次に林分経営最適確率制御モデルを構築し、経営持続のための最低許容価格の探求を行う。最後にパラメータ値に対するシミュレーション分析を行い、最低許容価格の感応度分析とともに、従来の幾何ブラウン運動を使用したモデルとの比較分析を行う。
柳原宏和複数の成長パターンを持つスギ単純同齢林における炭素固定量予測
先日の京都議定書の発効に伴い、森林の持つ炭素貯留機能が益々重要視されてきた。本研究では、スギ単純同齢林を対象に同一林分内で複数の成長パターンが観察される場合の炭素固定量の予測手法を提示する。その方法は以下の通りである。まず、サンプル木に対し材積成長曲線を仮定しパラメータの推定を行い、推定されるパラメータを基にk-meansクラスタリングにより成長パターンを分類する。次に残存木の材積成長量を予測するために、成長曲線のパラメータを応答変数とし現時点の全林木のDBHを共変量にもつ複数母集団に対する多変量回帰モデルのあてはめを行う。ここでは、DBHに関する判別分析により成長パターンを分類し、回帰モデルの推定結果と共変量からの残存木の成長予測を行う。最後に、残存木の成長予測量から予測される炭素固定量及びその信頼区間の推定を行う。
能本美穂木材生産工程における燻煙乾燥によるバイオマス利用と炭素収支
木材利用による炭素削減効果をより高めるには、木材生産・加工過程で発生する林地残材や製材廃材の利活用と生産過程におけるエネルギー消費による炭素排出量の抑制が必要不可欠である。本研究では、製材廃材をカーボンニュートラルなエネルギー資源と捉え、製材品生産過程において、製材廃材を燃料とする燻煙乾燥を取り入れた場合の炭素収支分析を行う。加えて、化石燃料を利用する他の乾燥方法を選択した場合との炭素収支の比較を行い、製材廃材利用による炭素排出量の抑制効果を分析する。
行武 潔我が国木材市場における米材輸入効果の計量分析
本報告は、近年減少傾向が見られる米材輸入の変化が、日本の木材需給に及ぼす効果を見る。需給モデル推定の結果、米材丸太価格の国産材、ロシア材、NZ材需要に対する交差弾性値は、それぞれ0.129, 0.606, 2.987で、もし米材の価格が上がれば、国産材よりもNZ材需要の方が多くなる結果となった。また米国産地の住宅着工戸数、石油価格等が10%上昇しても、国産材は僅かに1.1%しか増えない。これでは例え米材からの輸入が減っても豊富な森林資源の利用は進まず、我が国における持続的経営は容易ではない。
高橋與明Small-footprint型航空機LiDARによる単木樹高推定
山岳地域の壮齢スギ人工林を対象に、地形特徴が異なる三サイトにおいて、LiDARデータによる樹高の推定精度、及び林地の地形がその推定精度に及ぼす影響について詳細に検討した。それぞれのサイトごとに全立木の実測樹高と推定樹高の関係を回帰分析により調べた。その結果、全てのサイトにおいて、回帰式の傾きは有意に1とみなされ(p<0.01)、また、切片は0との間に有意差が認められなかった(p>0.05)。また、樹高推定誤差はRMSEで最大0.901mであった。これらの結果から、LiDARデータから現地観測に匹敵する樹高計測値を得ることが可能であることが示唆された。
山本博一木造建造物文化財を維持するための森林資源管理
自然との共生に原点をおく木の文化は有限な資源の中で我々が進むべき指針を与えるものであり、木造建造物はその象徴である。森林はこれを支援する存在である。このことは森林の新たな価値の創生に繋がるものである。日本の主な建造物文化財の9割が木造である。木造建造物は300年間隔で大規模な修理が必要であり、その資材は長期的な視野に立って確保を図らなければならない。そのために必要な森林を整備する必要がある。本研究の目的はその体制づくりのため、文化財の修理現場と森林資源管理の間で共有すべき情報を提供することである。
白石則彦作業級と輪伐期の今日的意義
森林経理の基本的概念である作業級と輪伐期は一元的な森林計画が実践できる経営体でその役割を発揮したが,多くの所有者が存在する地域民有林では適用できず,減反率理論によって形式的に類似した結果を生む広義の法正林が代替的に採用されてきた。いま我が国の林業は経済的に成り立ちにくくなり,広義の法正林が成立する理論的背景も失われつつある。地域で計画的な森林管理を行い,林業を産業として再興するため,我が国の民有林経営における作業級と輪伐期の今日的意義を考察する。
千葉幸弘拡散方程式による樹形発達と枝打ち効果の分析
年輪解析によって、林木の成長過程を表現する拡散方程式が誘導される。数式としての表現型はきわめて単純だが、この方程式は樹幹だけではなく、枝の成長過程にも適用できる。つまり、三次元的に拡大する樹木の成長は拡散方程式で表現できるのかもしれない。一方、枝打ちによって強制的に樹冠を改変された樹木では、こうした単純な成長パターンが一時的に攪乱されるが、短期間のうちに復元するようである。こうした人為操作の繰り返しが完満な樹幹形を誘導する。
時光博史何のために管理するのか−共感の範囲と形−
類似したものごとが1つのモデルで説明され,何かが操作される。操作は管理するためであり,管理は経営の目的に従う。操作,管理,経営それぞれを受け持つ人々は共感が持続する範囲にあるのか。何のために管理するのか。平成15年度森林資源吸収源データ緊急整備事業による林分調査結果と森林資源管理に用いられる成長,保続の形や収穫表の調整方法の検討を通じて回答例を求めたい。
田中万里子大学生を対象とした木材消費思考アンケート調査−4大学の比較−
国産材需要増加策を模索する目的で、将来の木材の消費傾向を調査するため、大学生を対象とするアンケート調査を行ってきた。今回は、東京農業大学、静岡大学、拓殖大学、東京経済大学の4大学で実施した475名の回答データについて報告する。アンケートでは、1)将来住みたい住宅、2)住宅の内装の希望、3)家具の希望、4)学校の木造校舎についての賛否、5)公共の建物についての考え、6)木材を使った製品のアイディアについて質問した。文系の学生は農学系の学生に比較すると木材離れが進んでいる傾向が見られた。
嘉戸昭夫スギ立木の冠雪害危険度評価モデル
林木の冠雪害は枝葉に付着した多量の降雪によって折損する気象災害の一つである。この災害を防除するためには、冠雪害に対する林木の危険度を評価する必要がある。従来から、この災害の危険度を表す指数として形状比(樹高/胸高直径)が用いられてきた。しかし,形状比は冠雪害との間に一定の関係を示すものの、品種や林齢などが異なる林分間の比較には適さない場合が多い。そこで、スギを対象に冠雪荷重や立木耐力に関する実験を行ない、形状比に替わる新たな評価法を検討した。
村上拓彦森林リモートセンシングとオブジェクトベース画像分類
オブジェクトベースの画像分類とは,画像をあらかじめ適当なまとまりを持ったピクセルの集合(オブジェクト)に区分し,個々のオブジェクトが有する各種属性(バンド毎の平均値や標準偏差,形状,テクスチャ,隣接関係など)でもって,オブジェクトをカテゴリー化するものである。本研究の目的は,いくつかの衛星センサが観測した画像データに対しオブジェクトベース土地被覆分類を適用し,それぞれで判別のための因子や閾値がどのように異なるか確認することである。今回は,オブジェクトベースの森林域の抽出と,複数の分類クラスを設定した土地被覆分類結果について紹介したい。
広嶋卓也丸太価格に応じた収穫予測−減反率を用いて−
現在、我が国の林業を取り巻く状況は厳しく、とりわけ丸太価格が現状のように低い水準のままでは国産材の増産はままならない。現実に即した国産材の振興策を考える上では、価格に応じた生産量を予測することが有効となる。本稿では丸太価格と森林所有者の伐採性向の関係について考察する。具体的には減反率法による収穫予測を取り上げ、丸太価格の変化を減反率へ反映する方法を概説する。また最後に簡単な試算を行い、丸太価格の変化が伐採面積や伐採材積に及ぼす影響について分析する。
稲田充男林分材積表作成のための本数曲線式について
ハードウェア・OSの変更に伴い,ごく一部ではあるが要望のあった,MS−DOS版旧システム「林分密度管理図に基づく収穫予測表作成プログラム」のWindowsへの移植完了の報告。また,本システムを用いて林分材積表を作成する際,必要となる本数曲線式について報告する。
松本美香SDによる森林施業モデルの構築と適用
本研究は、現実森林に対し間伐強度及び伐期の異なる施業を一定期間実施した場合の森林要素(森林齢級構成、森林蓄積量、素材生産量等)の変化を推計するモデルを、林分密度管理の考え方を基礎として、SD(システム・ダイナミックス)の手法を用いて作成した。報告では、このモデルを用いて、(1)現実森林を対象とした施業比較、(2)目的とする森林状態への誘導実験、の2点について報告する。今回の分析対象には、愛媛県旧久万町(久万高原町の一部)の民有林スギ林を選定した。
Stanko TrifkovicReliability of n-tree distance sampling in stand density estimations and applicability to forest inventory
The n-tree distance sampling offers rapid estimations of stand density, basal area and volume. It involves a distance measurement from the plot center to the only one fixed nth nearest tree and the circular plot area is a variable value. It is known as a cost-competitive to other statistical methods and a bias as the main obstacle to be widely applied to forest inventory. To test reliability of n-tree distance sampling in estimation of stand density, computer simulations and field measurements are carried out. Computer simulations are conducted in a Geographic Information System (GIS) establishing point populations using high resolution satellite images in order to simulate real forest stands. Field measurements are conducted at the 98 years old Sugi (Cryptomeria japonica) forest plantation. The Unbiased Maximum Likelihood Estimator (Pollard, 1971) tends to overestimate and the Ratio of Means Estimator (Payandeh and Ek, 1986) tends to underestimate density if applying small n-tree values. Increasing the n-tree accuracy improves and reaches the true value, yet the field survey can be difficult if some high n-tree value is applied. Therefore, we want to propose a new stand density calculation method, here denoted as a GM Estimator, which is not biased even if small n-tree values are applied. It estimates stand density applying the geometric mean to the n-0.5 Prodan’s assumption.
中島 徹システム収穫表プログラムLYCSにおけるヒノキのパラメータ推定
本研究では,ヒノキを対象に,システム収穫表プログラムLYCSを適用することを目的とした。LYCSのパラメータは,関東地方,天城地方,富士・箱根地方,大井・天竜地方,紀州地方,愛知・岐阜南部地方,木曽地方,飛騨地方,土佐地方,四国内海地方,中国地方,九州地方の国有林で調整されたヒノキ林林分収穫表から決定した。これによって,全国のヒノキ林に対し,多様な密度管理に応じた成長予測を行うことが可能となった。
林 隆男ヒノキに対して調製した直径分布遷移モデルのスギへの適用可能性
本研究は、以前にヒノキ人工林に対して提案した直径分布遷移モデルのスギ人工林への適用可能性について検討する。西日本に位置する試験林のデータを用いてモデルのパラメータを推定し、得られたパラメータを用いて関東地方の試験林に対して成長を予測した。適用可能性を評価するために、密度、胸高断面積合計および平均直径について予測精度を検討した。また、予測開始時点の林齢や予測期間を変えて予測を行い、これらが予測精度に与える影響についても調べた。
坪内義樹二次林の分布と土地利用の多様性からみた金沢市の里山評価
本研究では,これからの里山の管理・保全を考える際に必要であろうと考えられる基礎的資料を得るため,GISによる里山の評価を次の2つの観点より試みた。ひとつは,里山の主要な構成要素である二次林の分布可能性を評価すること,もうひとつは,土地利用の多様性を評価することである。二次林の分布可能性の評価にはHSIモデルとJacobs indexの考えを応用した。また,土地利用の多様性を評価するにはLUDIを用いた。
鹿又秀聡列状間伐は推進すべきなのか?
同一林分に定性/列状間伐施業を実施した場合の収支をシミュレーションするために、システム収穫表・GISを利用した間伐収支予測のためのプロトタイプモデルを開発した。その結果、林道から200m以内であれば、列状間伐を行うことにより、間伐収支はプラスとなること、主伐収入まで考慮した場合、面積が1ha未満のときは下層間伐を繰り返した方が良く、面積が広くなるにつれてその差は縮小すること、総利用材積については、下層間伐を繰り返した場合が最も多いが、大きな違いはないことが明らかとなった。
松村直人基準・指標作りと多目的な定点観測網の応用可能性
昨年の報告に引き続き、これまでの森林調査法の特徴を概観し、多目的な定点観測網の設計について検討する。事例として、モントリオール・プロセスにおける基準・指標とFSCの森林認証基準などを取り上げ、これらに対応する森林資源情報の提供を考える。また、林野庁の森林資源モニタリング調査を利用したデータの集積手法やQA(品質保証)、QC(品質管理)への対応について、三重県を事例に分析した結果について報告する。
大西文秀流域を単位としたCO2固定容量の試算とGISの活用−わが国における3大都市圏の現状と琵琶湖・淀川流域での変動状況−
京都議定書の発効を受け、CO2の排出量の削減が市民や企業の活動において大きな社会的責務になった。この目標の達成には、ひとりひとりのCO2排出量や自然が持つ固定量に対する定量的な認識が不可欠となる。本試算では国土管理において重要性が再認識されている河川流域を単位としたCO2排出量と固定量の関係をCO2固定容量として捉え、数値モデルとGISを用いて試算し地域分布を明らかにした。また、変動状況や変動構造の解明を進めた。